Excelからのステップアップ:BIツールとの賢い使い分けで実現するデータ活用
Excelからのステップアップ:BIツールとの賢い使い分けで実現するデータ活用
データに基づいた意思決定の重要性が増す中、経営企画部門においてデータ活用は避けて通れない課題となっています。多くの企業、特に中小企業では、データ分析の第一歩としてExcelが広く活用されています。しかし、データ量の増加や分析の高度化に伴い、「Excelだけでは限界を感じる」「もっと効率的にデータを見たい」といった課題に直面することも少なくありません。
そこで注目されるのがBI(ビジネスインテリジェンス)ツールです。BIツールは、大量のデータを集計・分析し、分かりやすく可視化することで、迅速かつ正確な意思決定を支援します。しかし、BIツールを導入したからといって、それまで使っていたExcelが不要になるわけではありません。両者にはそれぞれ得意とする役割があり、賢く使い分けることで、データ活用のレベルをさらに高めることが可能です。
本記事では、Excelでのデータ分析経験をお持ちの皆様が、BIツールを導入・活用する際に知っておくべき、ExcelとBIツールのそれぞれの強み、そして効果的な使い分け方について解説します。この記事を通じて、自社のデータ活用を次のステップへ進めるためのヒントを得ていただければ幸いです。
BIツールとExcel、それぞれの得意なこと・苦手なこと
まず、BIツールとExcelがどのような特性を持っているのかを理解することが、効果的な使い分けの第一歩となります。
Excelの強みと弱み
Excelは、表計算ソフトとして多くのビジネスパーソンにとって身近なツールです。
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強み:
- 手軽さと柔軟性: 導入コストが低く、多くのPCに標準搭載されています。データの入力、簡単な集計、グラフ作成などが直感的かつ自由に行えます。アドホックな(その場限りの)分析や、ちょっとしたシミュレーションに威力を発揮します。
- 関数による複雑な計算: SUM、AVERAGEといった基本的なものから、VLOOKUP、ピボットテーブルなど、多岐にわたる関数や機能を組み合わせて、柔軟なデータ加工や集計が可能です。
- 個人の利用: 自分自身の業務に必要なデータの整理や分析には非常に強力です。
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弱み:
- 大量データ処理の限界: 数万行を超えるような大量データの処理になると、ファイルの動作が重くなったり、計算に時間がかかったりすることがあります。
- リアルタイム性・自動化の限界: 複数のデータソースからの情報収集や、データの自動更新には不向きです。常に最新のデータで分析を行うためには、手作業でのデータ更新が必要になる場合が多いです。
- 可視化の限界: 定型的なグラフ作成は得意ですが、複数のデータを組み合わせた複雑なダッシュボード作成や、インタラクティブな分析には向いていません。
- 共有・共同作業の難しさ: 複数人でファイルを共有して同時に編集する際にコンフリクトが発生したり、最新版の管理が煩雑になったりすることがあります。
- 属人化: 特定の担当者しかファイルの構造や計算ロジックを理解していないといった属人化が発生しやすく、情報共有や引き継ぎの障壁となることがあります。
BIツールの強みと弱み
BIツールは、データ収集、加工、分析、可視化、共有といった一連のプロセスを効率化・高度化するために設計されたツールです。
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強み:
- 大量データ処理: 数百万、数千万といった大量のデータも高速に処理し、集計・分析結果を瞬時に表示できます。
- データ連携・自動更新: 基幹システム、SFA、Webサイトデータなど、様々なシステムと連携し、データを自動的に取り込んで最新の状態に保つことができます。これにより、常にリアルタイムに近いデータでの分析が可能になります。
- 高度な可視化とインタラクティブな分析: 多彩なグラフや地図、ダッシュボードを作成し、データを視覚的に分かりやすく表現できます。ドリルダウン(詳細データの掘り下げ)やフィルタリングなどの操作を簡単に行え、様々な角度からデータを探索できます。
- 情報共有・コラボレーション: 作成したレポートやダッシュボードを組織内で簡単に共有できます。クラウド型のBIツールであれば、場所を選ばずにデータにアクセスし、チームでのデータに基づいた議論を促進できます。
- データガバナンス: データの定義や計算ロジックを一元管理し、組織全体で信頼できる単一の情報源(Single Source of Truth)を構築しやすい構造になっています。
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弱み:
- 導入コスト・学習コスト: ツールによってはライセンス費用が高額になる場合があり、導入には初期コストがかかります。また、ツールを使いこなすためには一定の学習期間が必要になる場合があります。
- 定型外分析の柔軟性: あらかじめ定義されたデータモデルや作成されたダッシュボードの範囲内での分析は得意ですが、完全に自由な形式でのアドホックなデータ加工や、複雑な数式を用いた一時的なシミュレーションなどは、Excelほど手軽には行えない場合があります。
賢い使い分けの考え方と具体的な活用シーン
BIツールとExcelは、それぞれ異なる得意分野を持っています。どちらか一方を選ぶのではなく、両者の長所を活かした使い分けを考えることが、データ活用を効率化し、意思決定の質を高める鍵となります。
基本的な考え方は以下の通りです。
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BIツール:
- 定型レポート・ダッシュボードの作成と共有: 常に最新のデータで確認したい主要な経営指標(売上、利益、顧客数など)や、各部門で共有すべきKPIなどを集計・可視化し、自動更新されるダッシュボードとして提供します。
- 大量データの全体傾向把握: 大量のデータから、全体的なトレンド、異常値、特定の切り口での比較などを素早く行う場合に活用します。
- データ探索と一次分析: ダッシュボードを見ながら気になる点を見つけ、ドリルダウンなどで原因を探る初期的な分析に利用します。
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Excel:
- 小規模なデータ加工・集計: BIツールに取り込む前の、特定のファイル形式の変換や、簡単なデータの整形・集計を行います。
- アドホックな詳細分析: BIツールで全体傾向を把握した後、特定の期間や特定の顧客層など、さらに細かい条件でデータを絞り込み、詳細な要因分析や仮説検証を行います。BIツールからエクスポートしたデータをExcelで加工することも有効です。
- 複雑なシミュレーション・計算: 予算策定における複雑な計算モデルの構築や、特定の施策による影響を簡易的にシミュレーションする場合などに利用します。
- 個人または小グループでの非定型的なデータ管理: 共有する必要性の低い、個人的なタスク管理や、特定のプロジェクトに関連する少量のデータの管理などに利用します。
具体的な活用シーン例
| 業務内容 | BIツールの活用 | Excelの活用 | 使い分けのポイント | | :--------------------------- | :--------------------------------------------------- | :----------------------------------------------------- | :--------------------------------------------------------------------------------- | | 日次・週次の売上進捗確認 | 最新の売上データを自動更新し、日別の推移や目標達成率をダッシュボードで表示 | 特定の商品の売上データだけを抜き出し、詳細な内訳を計算 | 定常的なモニタリングはBIツール、特定要素の詳細分析はExcel | | 予実管理 | 予算と実績データを連携し、差異を可視化するダッシュボードを作成 | 翌年度の予算策定における計算モデル作成や、複雑な条件での予算シミュレーション | 実績との比較・共有はBIツール、予算計画・シミュレーションはExcel | | マーケティング施策の効果測定 | 施策実施前後のWebサイトアクセス数やコンバージョン率の変化を可視化 | 施策対象顧客リストの作成・加工、効果測定に必要な個別データの集計・分析 | 施策全体の効果・傾向はBIツール、詳細な効果要因分析やデータ準備はExcel | | 在庫管理 | 現在庫数や入出庫データを可視化し、適正在庫や欠品リスクを把握 | 棚卸しデータの入力・集計、特定の在庫変動要因の詳細分析 | 全体的な在庫状況の把握はBIツール、実地棚卸しデータの入力や詳細分析はExcel |
BIツール導入でExcel中心のデータ活用はどう変わるか
BIツールを導入し、Excelと適切に使い分けることで、これまでExcel中心で行っていたデータ活用は大きく効率化され、質が向上します。
- データ集計・更新の手間削減: データの収集や集計、レポート作成の大部分を自動化できます。これにより、これまで集計作業に費やしていた時間を分析や意思決定により多く使えるようになります。
- リアルタイムなデータ状況の把握: 常に最新のデータに基づいた情報を得られるため、変化に素早く気づき、タイムリーな意思決定が可能になります。
- データに基づいた組織内の共通認識醸成: 誰でも同じ情報源(BIツールのダッシュボード)を見ることができるため、データに関する共通認識が生まれやすくなります。これにより、勘や経験だけでなく、データに基づいた客観的な議論や意思決定が促進されます。
- 分析の深化: BIツールで全体像を素早く掴み、Excelで詳細を深掘りするといった連携により、より多角的で深い分析が可能になります。
- 属人化の解消と情報共有の促進: 特定の担当者しか分からなかった複雑なExcelファイルによる集計から脱却し、BIツールを通じて組織全体でデータを活用する文化を醸成しやすくなります。
まとめ:共存で最大化するデータ活用の力
BIツールはExcelの代替ではなく、その補完として考えることで、真価を発揮します。Excelが得意とする柔軟な小規模データ処理やアドホックな分析と、BIツールが得意とする大量データの高速処理、自動更新、高度な可視化、共有機能を組み合わせることで、データ活用の可能性は大きく広がります。
まずは、自社のデータ活用における課題を明確にし、BIツールに何を求めたいのかを具体的に整理することから始めてみてください。そして、既存のExcelでの運用も考慮に入れながら、BIツールとの最適な使い分けを検討していくことが重要です。
この記事が、皆様のBIツール導入検討や、さらなるデータ活用推進の一助となれば幸いです。