【初心者向け】BIツール活用の成否を分ける「データ準備」の始め方
はじめに:BIツール導入のその前に、データは本当に準備できていますか?
データに基づいた意思決定は、現代ビジネスにおいて不可欠な要素となりつつあります。多くの企業、特に中小企業においても、BIツールなどの活用によって、蓄積されたデータをビジネスの成長に活かそうという機運が高まっています。
しかし、BIツールを導入すればすぐにデータ活用が進む、というわけではありません。実際にツールを使い始めてから、「データがバラバラで使えない」「思ったように分析できない」といった壁に直面することも少なくありません。その原因の多くは、「データ準備」が十分に行われていないことにあります。
本記事では、BIツールでデータから価値ある情報を引き出すために不可欠なデータ準備(データプレパレーション、データ前処理とも呼ばれます)について、その重要性から具体的な始め方までを初心者向けに解説します。データ準備の必要性を理解し、効率的なデータ活用の第一歩を踏み出していただければ幸いです。
なぜBIツール活用にデータ準備が必要なのか
「データ準備」とは、分析やレポート作成に適した形にデータを整える一連の作業を指します。具体的には、様々な場所に散在するデータの収集、不要なデータの削除、表記の統一、欠損値(空白やエラー)の処理、分析しやすい形式への変換などを行います。
なぜ、このデータ準備がBIツール活用においてそれほど重要なのでしょうか。主な理由は以下の通りです。
- 分析結果の信頼性向上: 誤ったデータや不完全なデータに基づいて分析を行っても、正確な結果は得られません。データ準備をしっかり行うことで、分析の精度が高まり、信頼できる意思決定が可能になります。
- 分析効率の向上: 整っていないデータは、ツールに取り込んでもエラーが発生したり、集計に手間取ったりします。あらかじめ準備されたデータであれば、スムーズにBIツールでの作業を進めることができ、分析にかかる時間を大幅に短縮できます。
- データの理解促進: データ準備の過程で、データの構造や内容を深く理解することができます。これにより、どのような分析が可能か、どのような示唆が得られそうかといった洞察を得やすくなります。
- 関係者間の共通認識: 複数のデータソースを統合し、表記揺れなどを統一することで、データに関する社内での共通認識を醸成できます。「この売上データは何を指しているのか」といった曖昧さをなくし、スムーズな議論を促進します。
Excelで日常的にデータを集計・分析されている方であれば、「あのデータとこのデータを組み合わせるのに、手作業でコピペして、表記を直して…」といった経験があるのではないでしょうか。BIツールはこのような手作業を効率化してくれますが、その元となるデータが「分析に適したきれいな状態」でなければ、ツールの真価を発揮することは難しいのです。
BIツール活用のためのデータ準備の基本的なステップ
データ準備は、一般的に以下のようなステップで進められます。
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データ収集:
- 社内に散らばっている必要なデータ(売上データ、顧客データ、Webサイトのアクセスログなど)を収集します。
- 複数のシステムやファイル形式(Excel、CSV、データベースなど)からデータを集めることが一般的です。
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データ確認・理解:
- 収集したデータがどのような構造になっているか、各項目が何を示しているかを確認します。
- データの量、形式、含まれる値の種類などを把握し、分析目的との関連性を理解します。
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データクレンジング(洗浄):
- データの誤りや不整合を修正する作業です。
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- 誤入力の修正: 数値がテキストになっている、日付形式がバラバラなど。
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- 表記揺れの統一: 「株式会社」「(株)」、「東京都」「東京」など、同じ意味なのに異なる表記を揃えます。
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- 欠損値の処理: データが空白になっている箇所(例: 連絡先が入力されていない顧客)。削除するか、平均値や中央値で補完するかなどを検討します。
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- 重複データの排除: 同じデータが複数存在する場合に一つにまとめます。
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データ整形(変換):
- 分析しやすいようにデータの形式や構造を変換する作業です。
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- 列の分割・結合: 例: 氏名が一緒になっている列を「姓」と「名」に分ける、住所を都道府県と市区町村に分ける。
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- 形式の変換: 例: 日付や数値形式をBIツールが認識しやすい形に変換する。
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- 構造化: BIツールは通常、「行」に個々のデータ(例: 一つの売上取引)、「列」にそのデータの属性(例: 日付、商品名、売上金額)を持つ構造(テーブル形式)を扱います。もしデータがクロス集計表のような形式になっている場合は、この形に変換する必要があります。Excelのピボットテーブルの元データのようなイメージです。
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データ統合:
- 複数のデータソースを組み合わせる作業です。
- 共通のキー(例: 顧客ID、商品コード、日付)を用いて、異なるテーブルやファイルを結合します。
これらのステップは、分析目的やデータの種類によって順序が前後したり、一部の作業が不要だったりすることもあります。
初心者でもできる!データ準備を始めるためのステップ
「データ準備」と聞くと、専門知識が必要な難しい作業のように感じるかもしれません。しかし、BIツールを活用する上で避けては通れない道です。まずは小さなステップから始めてみましょう。
- 対象データを絞り込む: いきなり社内の全データをきれいにしようとせず、まずはBIツールで分析したい特定のテーマ(例: 特定期間の売上データ、ある製品の顧客データなど)に必要なデータに絞り込みます。
- 現状のデータを「確認」する習慣をつける:
- データを開いたときに、「これは何を示しているデータか?」「列の意味は?」と意識して確認します。
- パッと見て「おかしな値はないか?」「空欄が多い項目はないか?」など、データの状態を観察します。Excelでフィルター機能などを使って、どんなユニークな値があるか、数値の最小値・最大値は適切かなどをチェックするだけでも発見があります。
- 「表記揺れ」や「誤入力」から直してみる:
- データクレンジングの中でも比較的取り組みやすいのが表記揺れや誤入力の修正です。
- Excelの「検索と置換」機能を使ったり、あるいはBIツールによってはデータの読み込み時に簡単な変換機能が備わっている場合もあります。まずは一番頻繁に利用する重要な項目(例: 商品名、取引先名、地域名など)から手をつけてみましょう。
- 分析しやすい「形」を意識する:
- 前述の「構造化」です。Excelでクロス集計表を作成するのではなく、その元となる生データに近い「1行1データ」の形式を目指します。BIツールはこの形式が得意です。
- 例えば、月別の売上金額が横並びになっている表ではなく、「日付」「商品名」「売上金額」のように列を分けて、各行にその日の取引が記録されているような形式です。
- BIツールのデータ接続・変換機能を活用する:
- 多くのBIツールには、データを読み込む際に簡単なデータ準備を行える機能(データ接続時の変換、ETL機能の一部など)が備わっています。
- まずはツールのヘルプやチュートリアルを確認し、どのようなデータ準備機能が使えるかを把握し、活用してみましょう。複雑な処理が必要な場合は、専門のETLツールやデータ統合ツールを検討する段階となりますが、まずはBIツールの内蔵機能でできる範囲から試すのが良いでしょう。
まとめ:データ準備はBIツール活用の「土台」
BIツールを導入し、データに基づいた意思決定を推進するためには、データ準備が非常に重要なステップとなります。最初は手間がかかる作業に感じるかもしれませんが、高品質なデータは分析の質を向上させ、より信頼性の高いビジネスの示唆を得るための強固な土台となります。
まずは、分析したいテーマに必要なデータを確認することから始めてください。そして、表記揺れの統一や不要なデータの削除など、取り組みやすいクレンジング作業から段階的に進めていくことをお勧めします。多くのBIツールは、データ準備を支援する機能を備えていますので、ツールの機能を積極的に活用することも有効です。
データ準備のスキルを磨くことは、BIツールを「使いこなす」ための鍵となります。ぜひ、一歩ずつ着実にデータ準備に取り組んでいただき、データ活用の成果を最大化してください。