【初心者向け】BIツールでデータからビジネスの示唆を得る具体的な手順
はじめに:BIツール導入後、データから何を得るべきか?
データに基づいた意思決定の重要性を感じ、BIツールを導入された企業様は多くいらっしゃるかと存じます。しかし、ツールを導入しただけで、すぐに経営や業務に役立つ「示唆」が得られるわけではないと感じている方もいらっしゃるかもしれません。
データ活用の真の目的は、単に数字を集計したりグラフを作成したりすることに留まりません。そこからビジネス上の課題解決や新たな機会発見に繋がる「示唆」、つまり意味のある情報や洞察を引き出し、具体的な意思決定に活かすことにあります。
この記事では、BIツールを使い始めたばかりの初心者の方に向けて、データからビジネスの示唆を得るための考え方と、今日から実践できる具体的な手順を解説いたします。この記事を読むことで、BIツールを使ったデータ活用の第一歩を踏み出し、データから価値を引き出すためのヒントを得ていただければ幸いです。
示唆とは何か?単なる集計・可視化との違い
まず、「示唆」とは何かを明確にしておきましょう。
- 集計・可視化:
- 売上合計、顧客数、特定の期間の推移などを計算し、表やグラフで見える形にすることです。
- これはデータ活用の基礎であり、現状把握には不可欠ですが、それ自体が直接的に意思決定に繋がるわけではありません。例えば、「先月の売上は前月比マイナス5%でした」という事実は集計・可視化の結果です。
- 示唆:
- 集計・可視化されたデータから読み取れる、ビジネス上の課題や機会、原因や影響関係などについての意味のある洞察や発見のことです。
- これは「なぜそうなっているのか?」「これからどうなりそうか?」「どうすれば改善できるか?」といった疑問に対するヒントとなります。例えば、「売上マイナス5%の原因は、A商品の主要顧客層である30代男性の購入頻度低下にあるようだ」といった推測や発見が示唆です。
BIツールは、この「示唆」を得るための強力なツールですが、ツール任せにするのではなく、データと向き合う私たちの「考え方」が非常に重要になります。
データからビジネスの示唆を得るための基本的な考え方
データから効果的に示唆を得るためには、以下の2つの基本的な考え方を意識することが大切です。
- ビジネス上の問いを持つ:
- まずは明確な目的意識を持つことです。「何のためにこのデータを見るのか?」「どんな課題を解決したいのか?」といったビジネス上の問いや仮説を持つことから始めます。漠然とデータを眺めるだけでは、単なる数字の羅列に見えてしまい、重要な示唆を見落とす可能性が高まります。
- 例えば、「最近、特定商品の売上が落ち込んでいるが、その原因を探りたい」「新規顧客獲得のために、効果的なプロモーション施策を見つけたい」など、具体的な問いを設定します。
- データから「なぜ?」を考える:
- データを見て「こうなっている」という事実を把握したら、次に「なぜそうなっているのだろう?」と疑問を持つ習慣をつけましょう。この「なぜ?」を掘り下げていくプロセスが、示唆を得るための探求です。
- 例えば、特定の商品の売上が減少しているグラフを見たときに、「なぜ減っているのか?」「いつから減り始めたのか?」「どんな顧客層で減っているのか?」「競合の状況は?」など、様々な角度から疑問を投げかけ、データで検証できる仮説を立てていきます。
BIツールでデータから示唆を得る具体的な3つのステップ
それでは、BIツールを使ってデータからビジネスの示唆を得るための具体的な手順を3つのステップでご紹介します。
ステップ1:ビジネス上の「問い」を設定する
データ分析を始める前に、最も重要なのは「何を明らかにしたいのか?」「どんな課題を解決したいのか?」というビジネス上の問いを明確にすることです。
- 現状の課題や関心事をリストアップする:
- 経営会議で話題になっていること、現場で困っていること、目標達成のために注力すべきことなど、ビジネス上の関心事を書き出してみましょう。
- 例:「特定サービスの解約率が高い」「Webサイトからの問い合わせが伸び悩んでいる」「広告費の効果が低い」「顧客満足度を向上させたい」
- 問いを具体的にする:
- リストアップした課題や関心事について、「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どのように」といった要素を加えて、より具体的な問いに落とし込みます。
- 例:「特定サービスの解約率が高い」→「どの顧客層で解約率が高いのか?」「解約に至るまでの顧客行動に特徴はあるか?」「解約率を低減するには何をすべきか?」
この段階で設定した問いが、その後のデータ収集や分析の方向性を決定づけます。最初は小さな問いから始めても構いません。
ステップ2:問いに答えるためのデータを可視化する
設定した問いに答えるために必要なデータを特定し、BIツールを使って可視化します。
- 必要なデータを特定する:
- ステップ1で設定した問いに答えるために、どの種類のデータ(売上データ、顧客データ、Webアクセスデータなど)が必要か、どの期間のデータが必要かを特定します。
- 例:「どの顧客層で解約率が高いか?」→顧客属性データ(年齢、性別、地域など)と契約期間データ、解約日データなどが必要になるでしょう。
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BIツールでデータを接続し、可視化する:
- 特定したデータをBIツールに取り込み、問いに関連する指標(KPI: Key Performance Indicator)を算出・集計します。
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次に、BIツールの機能を使って、データをグラフや表で分かりやすく表示します。データの性質や見たい関係性によって、適切な可視化方法を選びます。
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一般的な可視化方法の例:
- 時系列グラフ(折れ線グラフ): 売上や顧客数の推移、Webサイト訪問者数の変化など、時間経過に伴う変化を見るのに適しています。
- 棒グラフ: カテゴリ別の比較(商品別売上、地域別売上など)やランキングを見るのに適しています。
- 円グラフ/ドーナツグラフ: 全体に対する内訳や構成比を見るのに適していますが、項目の多い比較には向きません。
- 散布図: 2つの数値項目間の関係性(相関)を見るのに適しています(例:広告費と売上の関係)。
- ヒートマップ: 2つ以上のカテゴリ項目を組み合わせたときの指標の値の大小を色の濃淡で見るのに適しています(例:曜日時間帯別のWebサイトアクセス数)。
- テーブル(表): 詳細な数値を確認したい場合に用います。
BIツールには様々なグラフの種類がありますが、まずは目的を明確にし、シンプルなグラフから試してみましょう。
ステップ3:可視化されたデータからパターンや傾向を読み取り、示唆を得る
可視化されたデータを見て、設定した問いに対する答えや、新たな発見を探します。ここで「なぜ?」を深く考えることが重要です。
- データが示すパターンや傾向を観察する:
- グラフや表を見て、数値の増減、特定のグループの特徴、予想外の動きなどに気づきます。
- 例:時系列グラフで特定の時期に売上が急減している、棒グラフで特定地域の売上が突出して低い/高い、散布図で一方が増えると他方も増える傾向がある、など。
- 観察結果から「なぜ?」を問いかける:
- 観察したパターンや傾向について、「なぜこうなっているのだろう?」と問いを立てます。
- 例:「なぜこの時期に売上が減ったのだろう?」「なぜA地域の売上が低いのだろう?」「なぜBという行動をとる顧客は解約しやすいのだろう?」
- BIツールの機能を使って深掘りする(ドリルダウン、フィルタリングなど):
- BIツールのドリルダウン機能(例:年→月→日、地域→支店→店舗のように階層を掘り下げる)やフィルタリング機能(例:特定の顧客層だけを表示、特定の期間だけを表示)を使って、原因や要因を探るためにデータをさらに細かく見ていきます。
- 例:売上が急減した時期について、ドリルダウンして日ごとの売上を見る、特定顧客層に絞って行動パターンを見る、特定の地域だけを抽出して他の指標(顧客数、商品別売上など)と比較する、など。
- 仮説を立て、検証・改善に繋げる:
- これらの分析を通じて、データから得られた発見や洞察をもとに、ビジネス上の仮説を立てます。
- 例:「売上急減は、競合他社の大型キャンペーンと時期が重なったためかもしれない」「A地域の売上が低いのは、その地域特有のニーズに合わない商品ラインナップのせいかもしれない」「Bという行動は、サービス利用上のつまずきを示唆している可能性がある」
- 立てた仮説がデータで裏付けられるかを確認し、そこから具体的な改善策やアクション(例:競合キャンペーンへの対抗策、A地域向けの商品見直し、B行動をとった顧客へのフォロー強化など)を検討し、実行に移します。
データ分析のプロセスは、多くの場合、この3ステップを繰り返し行います。一つの問いから始めた分析が、新たな問いを生み、さらなる深掘りに繋がっていくものです。
示唆を得るためのポイントとBIツールの活用
データからビジネスの示唆を効果的に得るためには、以下の点も意識すると良いでしょう。
- 完璧を目指さない: 最初から壮大な分析や完璧な答えを求めすぎないことです。小さな問いから始め、データと向き合う中で徐々に分析のスキルや視点を磨いていくことが重要です。
- ビジネス部門と連携する: データを最も理解しているのは、そのデータが生成される現場やビジネス部門の担当者です。彼らが持つ経験や知識とデータ分析の結果を結びつけることで、より深い示唆が得られます。BIツールで作成したダッシュボードなどを共有し、一緒にデータを見る習慣をつけるのが効果的です。
- 継続的な取り組みとする: データ分析は一度行えば終わりではありません。市場や状況は常に変化するため、定期的にデータをモニタリングし、新たな示唆を得るためのプロセスを継続することが大切です。BIツールの自動更新機能やレポート配信機能を活用すると良いでしょう。
- BIツールの主要機能を理解する:
- ダッシュボード: 複数のグラフや表を一覧できる画面です。ビジネスの状況を俯瞰し、異常値や変化に素早く気づくのに役立ちます。
- ドリルダウン/アップ: 集計レベルを掘り下げたり(ドリルダウン)、戻したり(ドリルアップ)することで、データの詳細を見たり、全体像を捉え直したりできます。
- フィルタリング: 特定の条件(例:特定の期間、特定の地域、特定の顧客層など)でデータを絞り込んで表示することで、関心のある部分だけを詳しく分析できます。
- ピボットテーブル: 複数の項目を組み合わせて集計表を作成し、様々な角度からデータを集計し直すことができます。Excelのピボットテーブル機能と似ています。
これらの機能を効果的に使うことで、ステップ3でのデータ深掘りが容易になります。
まとめ
BIツールを導入したばかりの頃は、たくさんのデータや機能に圧倒されることもあるかもしれません。しかし、データからビジネスの示唆を得るプロセスは、特別なスキルがなくても、正しい考え方と手順を踏めば誰でも始めることができます。
今回ご紹介した「①ビジネス上の問いを設定する」「②問いに答えるためのデータを可視化する」「③可視化されたデータからパターンや傾向を読み取り、示唆を得る」という3つのステップは、データ活用を推進する上での基礎となります。
まずは自社の身近な課題について、小さな問いを立てることから始めてみてください。BIツールを使ってデータを可視化し、「なぜ?」という視点を持ってデータと向き合うことで、きっとビジネスの意思決定に繋がるヒントが見つかるはずです。
データ活用は実践と改善の繰り返しです。恐れずに一歩を踏み出し、BIツールをビジネスの羅針盤として活用していきましょう。