BIツール活用の成否を分ける「データ収集・統合」の基本:散らばるデータを意思決定に繋げるステップ
はじめに
データに基づいた意思決定は、現代のビジネスにおいて不可欠な要素となりつつあります。多くの企業がBIツールのようなデータ分析ツールに関心を持ち、導入を検討されています。しかし、BIツールを導入すればすぐに高度な分析ができるようになる、というわけではありません。BIツールが真価を発揮するためには、その前に重要なステップがあります。それが「データ収集」と「データ統合」です。
社内に散らばっている様々なデータを集め、分析しやすい形に整える作業は、BIツール活用の成否を分ける土台となります。データ収集や統合に課題を感じている経営企画担当者の方々に向けて、本記事ではその基本と考え方、そして具体的なステップを解説いたします。
BIツール活用におけるデータ収集・統合の重要性
BIツールは、様々なデータソースから集められたデータを可視化したり、分析したりするためのツールです。しかし、分析の元となるデータが正確でなかったり、バラバラな場所に散在していたりすると、BIツールを使っても信頼できる分析結果を得ることはできません。
多くの企業では、売上データは営業部門のExcelファイル、顧客データはCRMシステム、Webサイトのアクセスデータは別の分析ツール、といった具合に、データが部門ごとやシステムごとに管理されています。これらのデータは形式もバラバラであることが少なくありません。
このような状態のままBIツールに接続しても、断片的な情報しか見えず、ビジネス全体を俯瞰した分析や、複数の要素を組み合わせた高度な分析は困難です。「データが散らばっていて、どこに何があるか分からない」「必要なデータを探すのに時間がかかる」「データによって定義が違う」といった課題は、データに基づいた意思決定を妨げる大きな要因となります。
データ収集・統合は、これらの散在するデータを一箇所に集め、分析に適した形に加工・整理するプロセスです。このプロセスを経ることで、BIツールは初めてその能力を最大限に発揮できるようになります。
意思決定に必要なデータソースの種類と特定
まず、どのようなデータが必要なのかを明確にすることが重要です。BIツールでどのような意思決定をしたいのか、どのような課題を解決したいのかによって、必要なデータは異なります。
一般的に、ビジネスの意思決定に関わるデータソースとしては、以下のようなものが考えられます。
- 社内データ:
- 販売・売上データ: 受注、売上、在庫、返品など。基幹システム、POSシステム、Excelファイルなど。
- 顧客データ: 顧客情報、購買履歴、問い合わせ履歴など。CRMシステム、会員データベースなど。
- マーケティングデータ: Webサイトアクセス、広告効果、キャンペーン反応など。Web解析ツール、広告管理ツールなど。
- 財務データ: 勘定科目、経費、利益など。会計システム、予算管理システムなど。
- 人事データ: 従業員情報、勤怠、評価など。人事管理システムなど。
- 社外データ:
- 市場データ: 競合情報、業界トレンド、市場規模など。調査会社データ、公開情報など。
- 外部指標データ: 為替レート、株価、気象データなど。公開API、データ提供サービスなど。
これらのデータソースから、BIツールで分析するために必要なデータを選び出し、特定する必要があります。まずは、最も解決したい課題に関連する少数のデータソースから着手することをお勧めします。
散らばるデータを「集める」基本的な考え方
必要なデータソースが特定できたら、次にそれらのデータをどうやって一箇所に集めるかを検討します。データの収集方法は、データソースの種類や量、システムの構成によって様々ですが、基本的な考え方は以下の通りです。
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手動での収集:
- ExcelファイルやCSVファイルなどを手動でダウンロード・コピーして集める方法です。データ量が少なく、更新頻度が低い場合に有効ですが、手間がかかり、ヒューマンエラーのリスクもあります。
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ファイル連携:
- 定期的にエクスポートされるCSVファイルやテキストファイルを、自動的に特定のフォルダに集める、といった方法です。システム連携よりも手軽な場合があります。
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データベース連携:
- 売上データなどがデータベースに格納されている場合、BIツールや連携ツールから直接データベースに接続してデータを取得する方法です。リアルタイムに近いデータ活用が可能になります。
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API連携:
- Webサービスや特定のシステムがAPI(Application Programming Interface)を提供している場合、APIを介してプログラムでデータを自動取得する方法です。高度な連携が可能ですが、技術的な知識が必要となる場合があります。
これらのデータを集める際には、「ETL」や「ELT」といったデータ連携の手法が用いられることがあります。
- ETL (Extract, Transform, Load): データソースからデータを抽出し (Extract)、分析しやすい形に変換・加工し (Transform)、最終的な保存先(データウェアハウスなど)に書き出す (Load) 手順です。データを変換してから保存します。
- ELT (Extract, Load, Transform): データソースからデータを抽出し (Extract)、一度そのまま保存先(データレイクなど)に書き出し (Load)、その後保存先で変換・加工する (Transform) 手順です。まずはデータを全て取り込んでから変換します。
どちらの手法を用いるかは、扱うデータの種類や量、目的に応じて異なりますが、データ収集・統合においては、このような専用のツール(ETLツールなど)を活用することで、効率的かつ正確なデータ連携を実現できます。
集めたデータを「統合・整形」するステップ
様々な場所から集めたデータは、形式や項目名がバラバラであることがほとんどです。BIツールでスムーズに分析を行うためには、これらのデータを統一された形式に「統合・整形」する必要があります。このステップには、以下のような作業が含まれます。
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データクレンジング(データクリーニング):
- データの誤り(入力ミス、表記ゆれ)、欠損値、重複などを発見し、修正・削除する作業です。例えば、「株式会社」と「(株)」を統一したり、空白の項目を補完したりします。この作業の品質が、分析結果の信頼性に直結します。
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データ変換:
- データの形式を統一する作業です。例えば、日付データの形式を揃えたり、単位を変換したりします。
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データ構造化:
- 複数のデータソースから集めたデータを、分析しやすいように関連付けて統合する作業です。例えば、売上データと顧客データを、共通の顧客IDを使って結びつけます。
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データ集計・加工:
- 分析の目的に応じて、データを集計したり、新たな指標を計算したりする作業です。例えば、日次の売上データを月次や四半期で集計したり、顧客のLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を計算したりします。
これらの「統合・整形」の作業も、ExcelやAccessで行うことも可能ですが、データ量が増えたり、頻繁な更新が必要になったりすると、手作業では限界があります。BIツールによっては、ある程度のデータ加工機能を持っていたり、専用のデータ準備ツールやETLツールと連携して、これらの作業を自動化・効率化したりすることができます。
初心者でもできるデータ収集・統合のスモールスタート
「データ収集・統合」と聞くと難しそうに感じるかもしれませんが、まずは小さな範囲から始めることができます。
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特定の課題に必要なデータから始める:
- 例えば、「A商品の売上不振の原因を探りたい」という課題に対して、まずはA商品の売上データと、関連するプロモーションデータ、在庫データなど、最小限のデータソースから集めてみましょう。
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手動での収集・整形から試す:
- データ量が少ないうちは、Excelでの手動でのデータ収集や、VLOOKUP関数、ピボットテーブルを使った簡単な整形から始めることができます。ただし、これはあくまで一時的な方法と考え、データ量や頻度が増えたら自動化を検討する必要があります。
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BIツールのデータ接続機能を活用する:
- 多くのBIツールは、CSVファイルやExcelファイル、主要なデータベースへの接続機能を備えています。まずはこれらの標準機能を使って、手元にあるデータをBIツールに取り込むことから始めてみましょう。
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ノーコード/ローコードのデータ連携ツールを検討する:
- 複雑なシステム連携が必要な場合でも、専門知識があまりなくても比較的容易に設定できるデータ連携ツールや、BIツール自体が持つデータ準備機能を活用することで、自動化・効率化を進めることができます。
最初から完璧なデータ基盤を構築しようとせず、まずは「BIツールでこの分析をしたいから、このデータを集めてみよう」という目的意識を持って、スモールスタートを切ることが成功への鍵となります。
まとめ
BIツールを最大限に活用し、データに基づいた意思決定を実現するためには、その前段階であるデータ収集とデータ統合が極めて重要です。社内に散らばる様々なデータソースから、意思決定に必要なデータを選び出し、集め、分析しやすい形に整形する作業は、分析結果の信頼性を左右する土台となります。
データ収集・統合のステップは、手動から始まり、ファイル連携、データベース連携、API連携、そしてETL/ELTツール活用へと、データの種類や量に応じて様々な方法があります。最初から全てのデータを完璧に整備しようとせず、まずは特定の課題に必要なデータからスモールスタートで取り組み、データ活用の基盤を徐々に強化していくことをお勧めします。
データ収集・統合は、BIツール活用の見えない土台ですが、この部分をしっかりと構築することで、初めてBIツールが「意思決定をサポートする強力なツール」として機能するようになります。ぜひ、自社のデータ環境を見直し、データ収集・統合のステップに取り組んでみてください。