【実践編】BIツールを使ったデータ分析の始め方:Excelとの違いと具体的なステップ
はじめに:BIツールでデータ分析を始めるために
BIツールを導入された、あるいはこれから導入を検討されている多くの企業様では、「ツールはあるけれど、実際にどうやってデータ分析を始めれば良いのだろうか」という疑問をお持ちになるかもしれません。特に、これまでExcelを中心にデータ集計や簡単な分析を行ってきた方にとっては、BIツールでの作業がどのように変わるのか、そして具体的に何から手をつければ良いのか、イメージしにくいと感じることもあるかと思います。
この記事では、BIツールを使い始めたばかりの方、あるいはこれから本格的なデータ分析に挑戦したいと考えている方に向けて、BIツールを使ったデータ分析の基本的な始め方、そしてExcelでの分析との違いについて、分かりやすくご説明します。この記事をお読みいただくことで、BIツールによるデータ分析の全体像と、最初の一歩を踏み出すための具体的なステップを理解していただけるかと存じます。
なぜBIツールが必要なのか? Excel分析の限界
多くの企業で長年データ集計・分析に活用されてきたExcelは、その手軽さと柔軟性から非常に優れたツールです。しかし、データ量が増加したり、より高度な分析やリアルタイムな情報共有が必要になったりすると、Excelだけでは限界を感じる場面が出てきます。
Excelでの分析における主な限界点は以下の通りです。
- 大量データの処理: 扱うデータ量が数万行、数十万行、さらにそれ以上になると、ファイルの読み込みや計算処理が著しく遅くなったり、ファイル自体が開けなくなったりすることがあります。
- 複数ファイルの統合・連携: 複数の部署やシステムから出力されるデータを統合して分析する場合、手作業でのコピペやVLOOKUP関数の組み合わせが必要になり、非常に手間がかかりエラーも発生しやすくなります。
- リアルタイム性: 最新のデータで常に分析を行うためには、毎回データの更新・集計作業が必要となり、タイムラグが生じます。
- 視覚化と共有: グラフ作成機能はありますが、複数の指標を組み合わせた複雑なダッシュボード作成や、部署横断での情報共有を効率的に行うには限界があります。
- バージョン管理とセキュリティ: 複数の人が同じファイルを編集する際に、どのバージョンが最新か分かりにくくなったり、意図しない変更が加えられたりするリスクがあります。また、細かいアクセス権限の設定が難しい場合があります。
BIツールは、これらのExcelの限界を克服するために設計されたツールです。
BIツールとExcelの決定的な違い
BIツールとExcelはどちらもデータを扱いますが、その設計思想と得意とする領域が異なります。簡単に言うと、Excelは「表計算と単一ファイル内でのデータ処理・分析」に強く、BIツールは「大量データの集計・分析、複数ソースからのデータ統合、高度な可視化、そして情報共有」に特化しています。
具体的な違いを見てみましょう。
| 特徴 | Excel | BIツール | | :------------- | :------------------------------------ | :--------------------------------------------- | | 得意なこと | 表計算、手軽なデータ集計・分析、関数計算 | 大量・多様なデータの統合・分析、高度な可視化、共有 | | データ量 | 比較的小規模なデータ | 大規模なデータ、複数のデータソース | | データ連携 | 基本的に単一ファイル、外部データ取込は手動 | 複数のデータベースやファイル形式に簡単に接続 | | リアルタイム性 | 手動更新が必要 | 自動更新、リアルタイムでのデータ反映が可能 | | 視覚化 | 標準的なグラフ作成 | 対話的なダッシュボード、多様なグラフ種類 | | 共有・連携 | ファイル共有、メール添付 | Webブラウザ経由での共有、アクセス権限管理 | | 操作性 | 表計算ソフトとしての直感的な操作 | ドラッグ&ドロップ中心の操作、分析に特化 |
BIツールを導入するということは、単にデータを集計するだけでなく、データを資産として扱い、全社的に活用していくための基盤を整えるということです。Excelでの分析経験は、BIツールでどのような分析をしたいかを考える上で非常に役立ちますが、操作方法や考え方には違いがあることを理解しておくことが重要です。
BIツールを使ったデータ分析の基本的な流れ
BIツールでのデータ分析は、一般的に以下のステップで進められます。
- データソースへの接続・取り込み
- 分析したいデータがどこにあるか(データベース、Excelファイル、CSVファイル、クラウドストレージなど)を確認し、BIツールからそのデータソースに接続します。多くのBIツールは多様なデータソースに対応しています。
- 複数のデータソースからデータを取り込む場合は、この段階で連携設定を行います。
- データの準備・加工(ETL処理の一部)
- 取り込んだデータが分析に適した形になっているか確認します。BIツールには、不要な列の削除、データ型の変換、欠損値の処理、データの結合、集計などの簡単なデータ加工機能が備わっています。
- より複雑なデータ加工が必要な場合は、専用のETLツールやスクリプトと連携することもありますが、BIツール内である程度の整形は可能です。
- データの可視化
- 加工したデータを基に、グラフや表を作成します。BIツールの強みは、豊富なグラフの種類と、ドラッグ&ドロップで直感的にグラフを作成できる操作性にあります。
- 複数のグラフや表を組み合わせ、「ダッシュボード」を作成することで、複数の指標や視点からデータを一覧できるようになります。ダッシュボードは対話的に操作できる(例:特定の期間を選択するとグラフが連動して変化する)ため、多角的な分析が容易になります。
- 分析と洞察の獲得
- 作成したダッシュボードやグラフを見ながら、データの傾向や特徴、異常値などを発見します。「なぜこうなっているのだろう?」という問いを立て、さらにデータを深掘りして分析を進めます。
- BIツールによっては、簡単な統計分析機能やAIを活用した自動での洞察発見機能を持つものもあります。
- 結果の共有と意思決定への活用
- 分析で得られた結果や洞察を、関係者と共有します。BIツールで作成したダッシュボードは、Webブラウザ経由で簡単に共有できます。
- 共有されたデータや洞察は、会議での議論やレポート作成に活用され、データに基づいた意思決定へと繋がります。
この流れを繰り返すことで、より深い理解と迅速な意思決定が可能になります。
BIツールでできる具体的な分析例
読者ペルソナである経営企画担当者の方が関心を持ちそうな、BIツールで実現できる具体的な分析例をいくつかご紹介します。これらは、Excelでも可能ですが、BIツールを使うことでより効率的・効果的に行えます。
- 売上分析:
- 月別・四半期別・年別の売上推移グラフ
- 商品カテゴリ別・地域別・顧客セグメント別の売上比較
- 前年同月比や目標達成率の可視化
- 営業担当者別のパフォーマンス比較
- 顧客分析:
- 新規顧客獲得数と既存顧客売上の推移
- 顧客のデモグラフィック属性や購買履歴に基づくセグメンテーション
- 優良顧客(リピート率、購入頻度、購入金額など)の特定と分析
- 顧客離脱率の傾向分析
- 在庫分析:
- 商品別の現在の在庫レベルと過去の変動
- 在庫回転率の計算と比較
- 過剰在庫や欠品のリスクがある商品の特定
- 需要予測に基づいた適正在庫レベルのシミュレーション(より高度な分析)
- Webサイト分析:
- Webサイトへの訪問者数、ページビュー数、滞在時間の推移
- トラフィックソース(検索エンジン、SNS、広告など)別の流入状況
- コンバージョン率の分析(購入、問い合わせなど)
- ユーザー行動フローの可視化
これらの分析をBIツールで行うことで、常に最新のデータを基にしたダッシュボードを関係者と共有し、議論を深めることができます。例えば、売上ダッシュボードを見ながら、特定の地域の売上が低迷していることに気づき、その地域のキャンペーンデータや顧客属性データを深掘りするといった、データに基づいた探索的な分析が容易になります。
分析を始める上でのポイント
BIツールを使ったデータ分析の最初の一歩を踏み出すにあたって、いくつか意識しておきたいポイントがあります。
- 小さな成功体験から始める: 最初から完璧な分析や複雑なダッシュボードを目指す必要はありません。まずは、普段Excelで集計しているデータの一部をBIツールに取り込み、基本的なグラフを作成してみるところから始めましょう。成功体験を積み重ねることがモチベーションに繋がります。
- 目的を明確にする: 何のためにそのデータを分析するのか、どのような問いに答えたいのかを明確にすることが重要です。「なんとなくデータを可視化してみる」のではなく、「どの商品の売上が伸びているか知りたい」「特定の顧客層の行動パターンを把握したい」といった具体的な目的を持って取り組むことで、必要なデータや分析の方向性が見えてきます。
- データの準備に時間をかける: BIツールでスムーズに分析を行うためには、元データの品質が非常に重要です。データの欠損、表記ゆれ、フォーマットの不統一などがないよう、データのクレンジング(整形・加工)には十分な時間をかけましょう。多くのBIツールにはデータ準備を支援する機能がありますので、活用してみてください。
- 試行錯誤を恐れない: データ分析に「唯一絶対の正解」はありません。様々な角度からデータを眺め、異なるグラフを試したり、データをフィルタリングしたりしながら、新しい発見がないか探求する姿勢が大切です。BIツールはインタラクティブな操作が得意なので、積極的に触ってみましょう。
まとめ:データ活用の次のステップへ
BIツールは、Excelでは難しかった大量データの処理や、複数ソースの統合、高度な可視化と共有を可能にし、より迅速で質の高い意思決定をサポートする強力なツールです。最初は操作に戸惑うこともあるかもしれませんが、まずは身近なデータを使って基本的な分析の流れを体験してみることから始めてください。
Excelでの分析経験で培った「どのようにデータを集計し、何を知りたいか」という視点は、BIツールでの分析においても非常に価値のあるものです。BIツールを使いこなすことで、これまでの手作業によるデータ集計・分析にかかっていた時間を削減し、本来の目的である「データから示唆を得て、ビジネスアクションに繋げる」という活動に、より多くの時間を費やすことができるようになります。
この記事でご紹介したステップや分析例を参考に、ぜひBIツールを使ったデータ分析の第一歩を踏み出してみてください。データ活用レベルの向上は、企業の競争力強化に直結する重要な取り組みです。